朝会のスピーチ

昨日新卒ぶりに全社朝会のスピーチが回ってきました。そのときの原稿の内容をアップしようと思います(一部改訂。このように話したかったけど緊張して話せなかった)。

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ぼくは大学のときにRI研究室というところにいました。RIの「RadioIsotope」の略です。Radioisotopeとは「放射性同位体」と訳されます。今テレビで騒がれている「ヨウ素」だとか「ラジウム」だとか、そういう放射線を放出するような物質を使った化学を専門に扱う研究室です。

ぼくの研究室はみんなの研究室とは隔離されていて、特別なコンクリートに囲まれた建物の中にありました。入退出はすべて管理をされ、何時何分に研究施設内に入ったのか、何時何分にそこから退出したのかが記録されます。退出するときは、体内の放射線量の測定が義務付けられ、体重計みたいなものに乗って、手を機械の中に入れて、そこで安全が確認されないとドアが開かないようになっています。

通常は困らないのですが、困るのがトイレで、当然管理されたセクションにはトイレはないので、トイレに行くには一度管理区画から出なければなりません。どんなに自分がトイレに行きたくても、その体重計に乗って、手を入れて、数十秒待たないとドアは開かないので、何度も早く開けよと思っていました。

ぼくが研究室にいた時も、何度か地震がありました。地震といっても震度3くらいの地震です。けれども先生はちょっと見てくるわと言って、施設内の点検に行っていました。当然ですが、放射線を扱う施設は、通常の建物では考えられないくらいの厳しい建築基準が定められています。なので大抵は問題ないのですが、それでもきちんと震度がいくつ以上だと見回りして報告しなければならないなどと、厳しい基準が設けられているのでそれにしたがって粛々と管理を行っていました。ぼくの大学以外にも、有名なところでは東海村や東京大学、筑波大学などに放射線の実験施設はあるので、彼らも同じように点検していたのだと思います。

今回の福島の事故は大変残念だし、痛ましいことです。想像できないくらいの何重にも安全対策が取られている原子力発電所を、ポンプ車での放水という極めて原始的な方法でしか冷やせなくなる状況など存在するのかと目を疑ってしまいます。

けれどもそれが現実のようです。

ぼくはここから先の原子力の未来を、もっというと日本の科学技術について心配をしています。きっとこれから先、日本では数十年にわたって原子力発電所の新規開発はできなくなることでしょう。高度な専門知識を持つ研究員や施設員は、原子力関連施設の管理や安全点検により多くの時間を割かれ、エネルギーをどうすれば効率よく、環境に負荷なく得られるのかという、21世紀に人類が解決しなければならない最も重要なテーマの1つであるこの問題に対して原子力の立場から解を見つけることはとても困難になることでしょう。原子力の危険性を訴える論調が強まり、反対運動が増え、現在ある原子力発電所や原子力の研究を行う機関は、廃止や縮小が進むことか思います。

20世紀後半、世界で最も有名な科学者であるアルバート・アインシュタインが唱えた、「E=mc^2」という美しい式は世界に衝撃を与えました。この式は、ほんの僅かな物質から膨大なエネルギーを生めるかもしれないと人々に希望を与え、その力が軍事に使われたとき、人々は大きな悲しみに包まれました。みなさんは広島に落ちた原爆で使われたウランがどのくらいだったかご存知ですか?あの爆弾には約50Kgのウランが乗っていました。けれども使われたのはたった0.7gでした。たった0.7gであれだけのエネルギをー得ることができる。原子力は人類の想像をはるかに超えていました。そしてそれを平和利用しようと考え、あらゆる安全対策を施し、作られたもの、それが今の原子力発電です。

原子力を使うのか、使わないのか、使っていいのか、使ってだめなのか、それはわかりません。たぶんみんなそれぞれ立場も、考えも、価値観も違うから答えは絶対ありません。けれども、2つのことだけを最後に今日は伝えたいと思います。

1つ目は自分の力で判断してほしいということです。

誰か芸能人が言ってるから、テレビでそういっているから、みのもんたはたまにはいいことをいうかもしれませんが、そうじゃないときもあります。科学に携わってないと、難しい言葉が沢山出てきてよくわからなくなって、イメージで判断してしまう言葉もよくわかります。けれども冷静に判断してください。きちんと本質的に今ある現象に向きあう覚悟を持ってください。大変なことです。めんどくさくもあります。ちょっとダサいかもしれません。勇気も必要です。けれどもぼくらは世界を変えるインターネットで働く人達です。ぼくらにはインターネットがあります。インターネットの向こう側には、たくさんの正確な情報があります。疑問が湧いたら調べてみて、1つではなくて、違う意見を2つ、3つ見てみる。正反対のものも出てくるでしょう。いいんです。納得出来る答えを探してください。流されずに、正確な情報をあつめて、そしてその問題に対して正直に考えてみましょう。

なんで温暖化が悪いことなのか説明出来る人はいますか?世界で最も信頼されているIPCCのデータでは、現状維持のまま、つまりこれ以上がんばらないし、怠けなかったときに、2100年を迎えたときの海面上昇はどのくらいだと言われているでしょうか?5m?10m?違います。たった70cmです。70cmを防ぐために、みんなががんばっている。なぜでしょう?100年後でも70cmしか上がらないはずなのに、ツバルはなんであんなに沈んでるんですか?まずは正確なデータを得る努力をすること。そして自らの頭で考え、疑問を持つこと。そしてその解決に立ち向かうことが、21世紀のぼくらがもっとも持たなければならない使命だと思います。

そして伝えたいことの2つ目。それは科学には夢があるということです。

科学は、もうぼくらの想像を超えた世界に行こうとしています。まあもうよくわからないんですよ。ファインマンという物理学者は「数学や物理とは、神様がやっているチェスを横から眺めて、そこにどんな美しい法則があるのかを見つけることだ」と言ったそうです。世界の疑問に1つ1つ答えていくのが科学ってやつで、人類は科学によってこれまでたくさんの恩恵をうけてきました。インターネットだってそうです。これからも科学はぼくたちにすばらしい未来を与えてくれるはずです。ぼくの大学時代の友人も、世界を変えるような、そう、ぼくらインターネットをやっている人がよく使う「世界を変える」という言葉、彼らも世界を変えるために、日々研究をしています。だから次の科学にチャレンジすることを少しでも応援してくれる人がいればうれしいです。

今回の事故は本当に残念なことだし、この中にも避難されている方やご家族もいらっしゃると思います。心からお見舞い申し上げます。そして1日でも早く日本が復興し、その一翼を、誇るべきサイエンスと、そして我らがインターネットが担うことができればうれしいなと思います。

ありがとうございました。

東日本大震災について

今回の東日本大震災は未曽有の大惨事となりそうです。被災させた方々におかれましては、深くお見舞い申し上げます。

東京では、放射線で人体がやられるのではないかという話題で持ちきりです。ある大手の会社はグループすべての社員を自宅待機にしたそうです。僕はとても理解に苦しみます。

まず、現在信頼のおける機関が出しているほぼすべてのデータが「東京都内は安全である」という結論を支持しています。東京より北にある筑波大学はアイソトープ総合センターのデータを元に「風説にまどわされるな」と関係者に警鐘を鳴らしています。

筑波大学 | 最新情報 福島原子力発電所の事故に係る対応について

文部科学省のデータでは、現在東京都で観測される放射線量は毎時0.147マイクロ・シーベルトです。これは日常的な胃のX線検診で人体が受ける毎時600マイクロ・シーベルトの500分の1に満たない量です。

放射線医学総合研究所でも、結論として「何もしなくていい」と言っています。

東北地方太平洋沖地震関連情報

この主張に対して、

いや、今後どうなるかわからないじゃないか!

というかもしれません。

それはおっしゃるとおりです。どうなるか誰にもわかりません。全ては確率論です。

しかし、確率論であるが故に、冷静にその確率を分析する必要があります。

たとえば我々は飛行機に乗ります。冷静に考えると、上空10000メートルを飛ぶ鉄の塊に乗るわけなので、万が一があったらほぼ死亡です。けれども我々は飛行機に乗ります。それは飛行機で死ぬ確率がとても小さいことを知っているからです。ちなみに飛行機に毎日乗った場合でも死ぬ確率は438年に1回です。

その438年に1回の飛行機がこの飛行機かもしれないじゃないか!!!!!

と主張する人もいるでしょう。それは正解です。それは誰にもわかりません。おそらく飛行機事故で亡くなった方はみんなそうです。

では、今回の原子力発電所が、今後何かの原因で大爆発を起こして、原爆みたいになる可能性はどのくらいでしょうか?たぶんほぼゼロです。

では、今回の原子力発電所の事故による放射線であなたが甲状腺癌になる確率はどのくらいでしょうか?それは、あなたが居酒屋に行ってとなりの人がタバコを吸っていて、その副流煙で高まる発がんリスクよりも低い値です。

けれども私は絶対癌になりたくないから、タバコの半径10mには絶対に近づかなし、だから今回も逃げるんだ

という人。すばらしいと思います。ちゃんと確率論から考えています。

けれども何も考えずに「放射線=危険=逃げろ」と思っている人もいるのが現実のようです。

もしかしたら大きな会社の人は、今後何か不測の事態になったときに、従業員や従業員団体から訴訟を起こされるのを危惧しているのかもしれません。そのリスクを考えてすべての従業員の満足度を上げるために自宅待機にしているのならばとても理解できます。そのリスクは予測するに少しは高そうです。

インターネットはさまざまな正確なデータを与えてくれます。正確ではないデータも与えてくれます。それを取捨選択するのは、その人の能力です。だからぜひ、これを読んでいる方は、情報をきちんと取捨選択してほしいと思います。そして定期的に信頼の置ける機関が出している情報を、正確に読み取り、理解し、行動してほしいなと思います。

正解はありません。けれども、正確なことはあります。私たちはネットの力でそれを得ることができます。